今回は、前後編の短編&ほろり路線に挑戦

Take shelter from the rain(雨宿り) 前編
「ありゃ。しもたー」
キッチンからはやてのミスった声が聞こえる。
「はやてー、なんかしたのかー?」
「主、どうかなされたか?」
リビングでテレビゲームに勤しんでいたヴィータが、ゲームを一時停止してキッチンを振り返る。
傍らでは、手持ち無沙汰にそれを見ていたザフィーラが体を起こし、キッチンへと歩みを進める。
はやては冷蔵庫を閉めると、居間の方へやってきた。
足元に来たザフィーラの頭をひと撫ですると、ヴィータの側に来、
「や、今冷蔵庫、覘いたらな、お味噌丁度切らしそうになってん・・・・」
彼女にしては、若干歯切れが悪い。
そう言うと、顔を少し曇らせながら、両の手のひらを合わせながら、
「ちょ、お使い頼まれてくれへんか?」
「えー、いまー」
不満顔のヴィータ。
それもその筈、買い物は主にはやてにシャマル、シャマル不在時はシグナムが交代して担当の分担だった。
ヴィータは八神家のペット(!?)ザフィーラの散歩と、朝の玄関掃除だ。
それに、どうやらゲームが今、クライマックスらしい。
「明日のお味噌汁の具、ヴィータの好きなもんにしてもええよ・・・・」
飴とムチ作戦を試みるはやて。
「うーん、もう一声!」
少し考え込むが、更にベットを要求するヴィータ。
さすがに見かねたのか、
「ヴィータ、主に対して不敬だぞ!!」
ザフィーラが、嗜める。
本来、いつもならシグナムかシャマルが、問答無用で彼女を強制的に行かせるのだが、生憎、二人とも任務で夕食時にならないと帰宅しないのをいい事に、調子に乗ってるみたいだ。
「しゃあないなぁー、お釣りでアイス買ってきていいから・・・・、二人には内緒やで」
軽くウインクすると、紙幣2枚と味噌の銘柄を書いたメモを一緒に渡す。
「じゃ、うちは夕飯の支度に掛かるから、ちゃっちゃと頑張ってやー」
「ヴィータ、頼んだぞ」
エプロンを着け、後ろ手にひらひらと手を振り、キッチンに向かうはやて。
ザフィーラも定位置のソファ横に伏す。
好条件を出され、降参のヴィータは、ゲームの電源を切ると立ち上がり、
「はやて、じゃあ行ってくるー」
そう言うと、玄関に向かう。
「お味噌汁の具も買うてきてなー」
靴を履いていると、そんな声がキッチンからしてきた。
「さーて、味噌も買ったし、味噌汁の具にするナメコもOK。アイスもはやてとあたしの分、おまけのザフィーラの分も買った」
アイスを買ったことで、鼻唄交じりにスーパーを出ようとした彼女だったが、自動ドアを出ると雨が降り出していた。
「やっべー、傘持ってきてねーや」
周りを見ると、会社帰りや買い物帰りの主婦、学生らが足早にカバンやバックを傘代わりに行き来している。
管理世界でなら、短時間は魔力シールドを張りつつ、飛行魔法でひとっ飛びなのだが・・・・
ここでそんなことをすれば、はやてに迷惑が掛かるのは必定・・・・
幸い、まだ小降りなので、意を決してスーパーの軒下から飛び出る。
三分の一ほど来た所で、近道とばかりに表通りではなく、住宅街の裏道を通ったのが誤算、そこかしこで道路工事が行なわれていて、かえって遠回りになった挙句、初めての道に出てしまっていた。
そうこうする内に、いよいよ雨が本降りに。
「うわっ、さすがにこれは無理っぽいか・・・・」
手近な建物の軒下に避難するヴィータ。
ここも裏通りとはいえ、道行く人はそれなりに居る・・・・
「アイスもやっべー。リィンが居ればなぁー」
スーパーのドライアイスサービスで幾分ましとはいえ、溶けてくるのは時間の問題。
リィンが居れば、凍結魔法でアイスは大丈夫だが、まだ、フルサイズでの長時間維持は無理らしいし、何より、今日は通信管制資格取得の為、管理局の講習に出向いていて不在だ。
「・・・・ちゃん」
「ん?」
なんか呼ぶ声がする。
道路を見渡すが、雨で皆、足早に帰路を急ぐ人達だけであり、雨宿りしているヴィータに気を向ける人など居ない。
「嬢ちゃん!!」
「うわっ!!」
後ろからいきなり、声を掛けられちょっと動揺・・・・・
(ヴォルケンリッターのこのあたしの背後を取るとは・・・・)
恐る恐る、後ろを振り返ると、老婆が建物の中から手招いてる。
中を見ると、色とりどりの菓子やレトロ溢れるおもちゃが並んでいる。
どうやらここは店らしい。
入り口の横戸の脇を見ると、殆ど掠れて見えない看板に『駄菓子 ○○菓子店』と書いてあった。
「嬢ちゃん、雨宿りしてらば、お菓子買って行きんさい」
ニカッと金歯を見せながら、老婆が年の功か有無を言わせぬ迫力で菓子を勧める。
(実際には、夜天の書の守護騎士としてヴィータの方が老婆の数倍、年を経ているのだが・・・・)
ふと見ると、スーパーやコンビにでは見ない、カラフルな色の菓子が様々に並んでいて、ヴィータも興味を引かれたのも事実だ・・・・
胸のポケットに手を突っ込むと、ジャラジャラと小銭の音がする。
「安いから買って行きんさい。これなんか30円じゃて。うまいっせ」
そう言うと、ショーケースから串に団子状に刺さったカステラを1本出し、ヴィータの目の前に突き出す。
勢いに負け、思わず受け取った彼女の前に、老婆の手のひらが出される。
「30円!」
商品を受け取ってしまったので、渋々ヴィータはポケットから50円玉を出すと、
「わーったよ、ほら」
お金を手のひらに載せると、老婆は側のザルから10円硬貨2枚を彼女に渡し、
「ほい、20万円の釣りじゃ」
ポケットに釣りを入れると、受け取ったカステラを半分ほど一気に齧り取る。
最初は不味そうに、くっちゃくっちゃと口を動かしていたが、『んっ』と止まると、残りも齧り取った。
「ウマい! 美味いよ、ばーちゃん!」
串を頭上高く揚げ、興奮した面持ちで一気にまくし立てるヴィータ」
「ほうだろ、ほうだろ」
満面の笑みで、その様子に微笑む老婆。
ふと壁際を見ると、大分時間を潰してしまったみたいで、一気に青ざめるヴィータ。
「もう帰んないと・・・・」
そう言うが、外はまだまだ雨が降りしきっている。
「嬢ちゃん、コレ使いなんせ」
そう言うと、隅っこに立て掛けてある傘を差し出した。
「いいのか?」
「嬢ちゃんの笑顔がえがったから、お礼さ」
「じゃあ、ばーちゃん、借りてっからな」
ヴィータはそう言うと、雨の中駆け出していった。
ps.アイスの件、シグナムにばれて、小分けにされてみんなのデザートになりました・・・・